暑くなってきた.昨年書斎に据え入れた冷房が役立ち,書斎に居ることが快適になった.そこで何をしているかといえば,コンコーネをキーボードで弾いてその音楽性を楽しみ,冒頭の解説をもとに小声で歌唱の練習をし,また鍵を不規則に叩いて旋律を作曲しようとしている.音楽との軽戯である.そしてもうひとつの習慣が文学をはじめとした読書である.そこで今月読もうと欲する本をご紹介.今月の好きなもの.
1.パウル・クレー「造形思考」
デザインに必要な霊感の源泉であり,それが辞書的網羅的に配された貴重な本.さまざまな図形に対しそれが持つ意味や効果を追究し,実際の制作を例にして実践を紹介している.絵画のほかWEBデザインや広告など平面的創作にとって甚大な量の知見を得られると期待して本棚の仲間に加えている.
2.アリストテレス「詩学」
ストーリーテリングの古典にして完成された本.古今東西の文学者が参照したというこの希哲学の理論によって,小説戯曲他さまざまな形式の創作に応用でき,部録の執筆や動画の粗筋に役立てられればより効果的な話題を提供できるかもしれない.この本自体は長い物ではなく,翻訳も読みやすい.
3.ショーペンハウアー「幸福について」
人間に対する鋭英とした洞察で現在でも古びない内容.掴みどころのない物ではなく,毎日の魂のケアによって維持できるものだと,セネカは幸福をそう定義したが,この本の著者はそれを哲学的概念で分析し,人間社会のあらゆる面を論じている.セネカと通じる部分も多く普遍性が感じられる.
4.マックス・ウェーバー「プロ倫」
経済とキリスト教の相剋を達成した記念碑的著作.神と富とに相仕えることは出来ない,というイエスキリストの言葉を,プロテスタント信徒の蓄財行為の矛盾を乗り越え蓄財を肯定するために読み替えることで,社会学の父となった.すなわち質素な生活の結果として蓄財を肯定できると説いた.
5.ホイジンガ「中世の秋」
革命以前の中世の信仰生活を詳述した研究.科学が勃る前に人々特に欧州の人々がどのような考えのもと社会を作っていたか,どのような楽しみを持って生活していたか,どのような芸術を嗜んでいたか.いずれもあまり知られていない.革命が起こるまでの時代の空気を感じられるかもしれない.
6.東川清一「音楽理論入門」
音楽の必須参考書に「楽典」があるが,初心者には障壁が高い.その近づき難い楽典を流れるような文章で解説している本.ピアノの鍵盤と音程に始まり,さまざまな旋法やその覚え方まで丁寧に説明されている.私は楽典を知らないが,この本でどんどん勉強したい.きっと役に立つだろう.
7.成実弘至「20世紀ファッション」
19世紀に起こったファッションの営みを,20世紀末までに活躍したキーパーソン10人を通して描く名著.21世紀に入った今ではファストファッションに急速に流れを奪われているが,そもそもファッションはまだ200年も経過していない歴史の浅い文化で,振り返るには今がちょうど良いかも.
