有限性は抑欲の根拠である.冷蔵庫に卵が2つしかなければ,ゆで卵を2つしか作れないので,2個で我慢する.冷蔵庫に入っている食材を把握していれば,無限に食べられるのではないと知っているので,食欲も有限になる.腹八分目を保つ最善の方法は,自宅にある食料のひとつひとつを常に把握することだ.何がどこに何個あるか,常にある程度把握しておくことだ.そうすれば,無限に食べたいと思うことはない.
この世は有限のはずなのだが,人間に比べ余りに大きすぎるので,人間には無限に存在するという観念を持たせられている.無限にあるものなんて無いのだが,地球も情報も保存容量も,際限なく広いように感じてしまうので,私たちは無限の概念を比較的容易に持つ.有限であるはずのものに無限の観念を当てはめる.そして,無限の観念を当てはめた方が,希望を持ちやすい.好奇心が駆動するからである.
有限と無限.これは有限,これは無限,と正しく峻別して弁えることは,そうしようと自分で考えることが少ないので珍しい.物質や人間は有限だが,宇宙空間や時間は無限,というように,正しく把握できるものでもない.正解が確定していないこともあるし,どこまでの範囲で考えるべきかという程度問題でもある.でも,有限であることを知っている方がなぜか,その対象を取り扱う術を考えやすい.
有限なものを扱う知恵と,無限であると把握する希望とを,兼ね備えているのが人間だ.私たちの認識にとって有限と無限を弁えることは重要である.有限な物を無限にあると言ってしまうこと,無限に広がる物を有限だと決めつけてしまうこと.いずれも誤りだ.トマトは色々なお店を合わせればいくらでもあるが,無限にあるのではない.宇宙はこの宇宙以外にも存在する.昔から言われるように,欲を制御する人は分別がある.
