文学っていいなと思う.自分以外の人生の話が聞けるから.私とは私一人の人生を生きる存在にすぎないので,私以外の人生を生きる存在になれない.この原理的不可能性に対し,自分は限定されるしかない.その原理を打ち破ることができるのが文学だと思う.自分以外の複数の人生をインストールすることで,自分の人生を想像によって複線化でき,取るに足らなかった体験を強化してくれる.文学は力だ.
文学には傑作と言われるものもあるし,大衆向けの人気作もある.私はまだ文学経験が浅いからか,作品を区別はしない.面白そうな題名や著者の作品を読んでみている.私は読むのが鈍いので,多くを読みこなすことはなかなかできないが,一度読んだ話を覚えておくことはできる.今年は年に30話くらいの速度で読んでいる.古典から現代まで,買った本のうち読めそうなものから読んでいる.
昨晩は最近出版され書店員が勧めているという,まだ知名度のない著者の作品の中から1話を読んだ.それだけで私は満足した.その満足が深かったので,読み終えてから1時間くらいぼうっとし何もしなかった.話し自体は伏線もあったし予想しない展開もあり楽しめるものだったが,昨夜の満足は何か自分の人生の達成や,苦労が報われたことや,生きていてよかったのだという実感に似たものだった.
実際の人生に何かがあっても,それが大したことではないと思える,そういう相対化の力が文学にはある.実人生に起きた出来事が一大事だと考えなくなるのだ.これこれが起こったらそうすればいい,そうして主人公はその場を乗り切ったのだ,という知恵を蓄えるためにも読める.こういう考えに出会したら,こう振る舞えばいい.そうも読める.人生を少し離れて見て対処できる.これは文学独特の良さだ.
