この快適な午後は何だろう,窓から洩れる快晴の日差しが当たる心地よさ.ベートーベンの交響曲を聴き,蔵書の文庫たちを眺めては,次に何を読もうかと思案するこの静謐な時間.おそらくは旧世紀の貴族階級が営んでいたであろう高級な文化的な暮らしが,今のこの私の生活なのだろうというタイムスリップ感覚.しかも当時の貴族が持ち得ないデジタルな工業製品を駆使して勉強に書き物さえしているのだ.
この時間は非常に代え難く最高である.全てに於いて満足する.私の望んでいたことが全て叶った暁として今の暮らしがある.もう何にも侵されまい.この書斎での時間が永久に続いてくれさえすれば,私は安らかに召天される.仮令30年後この書斎で定年後の生活を始めるにせよ,私は順調に始められるだろう.午前中に読書と書き物,午後は街に歩きに出かけ,夕方まで出払う.夜は再び書斎で明日を思い準備する.
そんな毎日.私の人生において重要な要素が固まってきている.そして,必要な物も揃ってきた.あとは能力と時間が追いつけば,理想の生活は完成する.能力も時間も,今のまま変えなくとも得られる見込みがある.つまり私は幸福な老後を予定として確立した.大きな仕事だったと思う.今や確固たる楽しみを予定した暮らしを固く築いた.この快晴の空の光は30年後も変わることなく照らしてくれるだろう.
今後余30年間は確かに長いかもしれない.何か変化が必要になるかもしれない.大きな支出が必要かもしれないし,妻の状態に助けが必要になるかもしれない.しかし,私の暮らし方が固まっていれば,そう狼狽しなくて済むだろう.基本の暮らし方を軸に考えて動けば良いのだから.この確立した暮らしをこれからは守り育て,大切に深め養い,生涯を楽しみのうちに過ごせることを祈念する.主に感謝する.
