人生に満足する時がある.若い頃あれだけ欲求不満だったのが信じられないくらい,満足することがある.そんな私を黙らせ順わせた物事を大切にしたい.それはいくつかある.最高の妻と結婚していること,35歳で1,000万円の資産を持てたこと,数理科学上の発見を成したこと,他にもいくつかある.中でも自分にとって意外だったのが,アンドラーシュ・シフが奏でるゴールドベルク変奏曲に出会ったことだ.
YouTubeである晩おすすめ動画で出会ったこの動画を,既に500回は聴いている.他のピアニストの演奏や弦楽による演奏も聴いたが,アンドラーシュ・シフの演奏が一番好きだ.それまでの私には,ここまで繰り返し聴いて深く愛する音楽はなかった.ドビュッシーやラヴェルは好きでも,それ以上に深まっていかなかった.でも,このゴールドベルク変奏曲については楽譜を買いキーボード練習し詩も書いた.
自分をここまで深く満足させる音楽があることに驚いたのである.しかもそれが100年以上前に成された曲だったのだ.それ以来,古典に関心が出て,ローマ時代のセネカやギリシャ時代のプラトンを読むようになって,これまた深く満足した.セネカを読んで以来,自分の軸ができたので,ビジネス書をほとんど読まなくなった.これこそ人生の財産,教養の宝である.人生を深める過程に入れたことになるだろう.
なので,私はゴールドベルク変奏曲を書いたバッハには敬意を持つようになった.と同時に,教養を深めた先人たちの思考や習慣がだんだんわかってきたので,知り合う機会のあった高齢の先達に敬意を持てるようになった.ピアニストをはじめ,音楽家に尊敬の気持ちを自然と持つようにもなった.人生は捨てたものではない.何か好きになったことをきっかけに深まるからだ.誰でもどんな境遇でも起こりうるのだ.
