夕方の陽射しが差し込む書斎でチルミュージックをかけて年始に実家に帰省する荷物をまとめていると,ふとこの書斎で今後何十年も過ごすことを思った.実家から学生時代に買って読んだ本が大量に書斎に傾れ込む.今後の人生,老年まで,それらの本が重要な友になる.そうか,自分はそういう人生を望み,そうやって老いていくことに希望をおいている.それらの本を私の趣味として選び,時間を費やすのだと.
これはひとつの決定である.重要な決定である.私の人生はそれ以外ではなくなる.この夕方の陽射しの中にみた,研究室の陽射しは,研究者人生の黄昏期だった.生涯を学術研究と共にし,後悔のない静かな晩年を迎える,そんな人生を学生だった私は設計した.この書斎に夕方が来るたびに,壁面が橙色に彩られるたびに,研究してきた半生を思い返し,いくつかの成果と苦労を以て,人生を肯定するのだろう.
もし本とともに生きることを選ばなかったら,研究する習慣を覚えていなかったら,私など何か生きるためにその日暮らしの仕事をして,貯蓄もなく贅沢もせずに,曖昧な生活を過ごしていたに違いない.そんな人が多い世の中である.そんな生き方が普通のものとなってしまっている時代である.学問に生きる環境を整えられた私は豊かに恵まれたのだ.それを何らかの形で社会に還元していくことを考えたい.
自分の知的好奇心のためだけにこれから学問するのではない.趣味であり,自分のためではある.しかし,それだけを目的にして果たして楽しいだろうか.幸福になるだろうか.そうは思わない.これからまだ何十年も生きたい.その間につけた力で,将来何かやりたい.今はまだ形として見えない.しかし,そのための力を養うために数年はかけたい.力と興味がはっきりしてきたら,何ができるか見えるだろう.
