合唱団の先輩に誘われてハイキングへ行った.仲間6名と共に8時間余りを過ごした.皆さんすでに定年しており,私は若いというだけで歓迎された.皆さんそれぞれすごい経歴の持ち主で,Wikipediaに載っている人もいれば論文が公表されていたり一流企業で活躍していたり大学で教えていたりと,やはりこの街で悠々自適な老後を過ごす人はただものではないのだと思いつつも,ある印象的な人物について記しておく.
80歳になるHさんは,目鼻や顔立ちも精悍な外見.京大を出て,外交官の内定を蹴って一流商社に勤め,その中でも業績上位であり続けた.東南アジアで新規事業を立ち上げる仕事を何件も任され,企業で重宝された経験から,大学で教える立場となり,論文も書いている.いわゆる超一流のサラリーマンである.その彼の第一印象はしかし何か元気ではなく,本人と最初に交わした会話は足腰の老化を嘆く内容だった.
すごい人には違いない,本当にそう思う.でも,働き盛りの頃に大きな成功を収め,人生に満足していた姿とも映る.さすが超一流,新しい技術に関心が強く,帰りの電車内でスピントロニクスやChatGPTの話題で長い間話した.私も一応一定の知識があったので,満足していただけたようだった.しかし,印象としてはすごい印象と共に,何か社会に対する高い責任を持ち,高邁な理想に向かい続けているように映った.
ご本人の訴えの通り,身体の衰えは否めない.閑静な住宅地で暮らしており,確かに人生の成功者であると言える.私はこれほどの正統な成功者を多分初めて見た.しかし,足腰の弱さから,何か溌剌さや奔放さは感じなかった.それだけ教養のある人生を送った証であるのかもしれない.その満帆な人生が鍛えた人格,器量の大きさは人間的魅力となり,それは同様に教養を積んでいる者にしか見えない類のものではなかった.
