きょうは東京ビッグサイトでイベント仕事の初日.退勤し宿泊先の新橋のキャビンでこれを書いている.情熱は一度点いたら消えないとゴッホは言った.ベートーベンの熱情ソナタを聴きながら,今の私は仕事に情熱を持っているだろうかと自問した.技術は高まった,作れるものは限りなく増えた.しかし,情熱を持っていれば普段も何か作るはずだ,私は何も作ってはいない.私は情熱を失っているのだろうか.
私の青春は孤独だったが,その傍らにはいつも芸術がいた.その時間は今でも鮮明に思い出せる,人生最高の時期だった.自分の基礎を形成した時期という意味で,自分にとって最も近い,貴重で価値のある時間だった.その時間は社会で分かる形で評価されたのではなかった.芸大美大合格には繋がらなかったし,今も大切にすべき作品が残ったのでもない.可能性を安心して広げられる基礎工事を済ませた時期だった.
今だって何もしていないのではない.人生で重要だと思う知識や思想を毎日吸収し形成している.数学や哲学の命題を考えついては考察する癖は,青春の時期に培った習慣である.毎日何か情熱を傾ける対象を見つけてきてはそこに価値を見出し,時に新たな珍しい命題に至ることがある.その命題を創造というのだろう,私はそういう定義では創造的な成果をこの10年残し続けている.私が生きる意味になっている.
ベートーベンのソナタは私が初めて自分から聴いた芸術だ.高校2年生の時だ.その音に込められた意味を時系列的に深く感じ取っていた.今でもその線での解釈はできる.他の曲にも応用できる.なので私の音楽体験は豊饒なものになったし,そこから引き出せる人生の意味も増えたように思う.その意味こそ情熱に近い.意味を持っていることは情熱を持っていることに近い.意味を与えてくれるものを大切にしたい.
