いいもので囲まれて暮らしたい.そう憚らず望む若者が多くいる.若い人の理想は,お気に入りの物だけで囲まれて暮らすことだという.配偶者や子供や近所のつながりは2次的で,まず自分の好きな部屋に好きな物を好きなようにレイアウトして暮らすことが人生の第一条件になっている.そのための収入は得る必要があるし,一度達成したらその物の量を調節し,流行に沿って少しずつ入れ替え,お気に入りの状態を維持するという.
物よりも大事なものを,見なくなっている.物に焦点を当てるあまり,大事なものが見えなくなっている.大事なものは目に見えず,物は目に見える道具でしかないはずなのに,本来大事なものをあまり重視しない.ある程度の物を得ると,満足はすると思うが,人は大事なものを軸に動くから,旅行したり勉強したりと,経験にお金を使うようになる.一般的な現代人はそうやって生きることを選択している.それが今は賢いとされる.
経験にお金を払って得られるものは,経験しないとわからなかったことだ.多分それはその経験をしなくても得られたものがほとんどだ.旅をすれば,旅先で出会った人の姿や表情,会話した時の温かいもてなし,料理や交通など観光の要素を,体験することができる.それは旅をしたからこそ経験できたことだ.それが経験にお金を使うことの内実だ.やはりこの現代世界の一部に参加することで,人の心との交流を求めたいらしい.
違う世界に住んでいる人は,違う環境で暮らしている人であるだけで,違う街は違った店が建っているだけで,と考えるのは貧しいだろうか.旅が好きなのは趣味としていいと思うけど,全員が旅に消費するべきかといえばそうではない.私は旅に関心が薄い.将来も旅のために大金を貯めることはしないと思う.世界を遮断しているのではない.一を見て十を知るだけだ.私がしっかり暮らしていれば,人の暮らしは推して知れる.
