ある本の著者は繰り返し読む本が何冊もある人は至福の人だと書いていた.何百冊も本を買って読んだ理由は何だったかと考えると,たくさん知識をつけるためでもたくさん知るためでもなく(そんなことをしても得るものはない),繰り返し読む本を得るためであると結論した.本は不思議なもので,知っても役立たないし,知識を積み上げても積み上げた知識などあるか疑わしいし,かといって自分の内面が変えられるのはある本のたった一文だったり,先人から学ぶには本を通してしか達する術がない.文字の羅列によって変化を体験する読書は不思議な行為である.
私には繰り返し読む本が何冊もあるので,先の本によれば私は至福の人である.しかし,読書が重要であるとはさほど思っていない.家族に読書家がいなかったことや,知識を有用性で測るビジネスパーソンに出会ったからかもしれない.大学で図書館学を専攻したからではないが,読書は自分が変えられる力を持つゆえに効果があることは認める.厭な程体験したからだ.感化されて初めて読書には効果があると思わされる.感化されるのは読書に限らないと思うので本の虫にはなれなかった.我が家に300冊はある蔵書の中で,繰り返し読む本を5冊選んでみた.
1.ラッセル『幸福論』『怠惰への讃歌』
前者は幸福を獲得するための常識論.結婚相手の本棚に置いてあり,家事の合間に読むようになった.後者はゼロ年代に流行った論文集で,現在の生活の基礎にした思想はこの本に書かれている.現代の捉え方を身につけるために,最後に頼るべきはラッセルだった.ラッセルの時代は文学の黄金期だったわけであるが,文学の発明という意味で,現代向けに更新したのも彼らの時代だった.これらの本の各章について小論文を書きたくなるくらい,生活する中で参照することが多く,彼の本に出合えて良かった.
2.リドレー『繁栄』
現在から未来の経済を楽観したきっかけの本.新しい製品が登場し続け,改善する一方であり,それはずっと続く.現代を悲観することは簡単である.環境問題,少子高齢,停滞経済,雇用と収入,労働条件.いま世界が忙しくなっている.おかげで2010年代は前代未聞の創造的な10年だったと回顧されるだろう.忙しいのも創造的だったのも,私はWebの仕業であると思っている.この本には,アイデアとアイデアを組み合わせて新製品を生む行為は永遠に続くと書いてある.現代が物に困らない時代なので,なにかと困ってきたら流通や制度を革めれば私たちは充分存続できる.モノや仕事がうまく行き渡る仕組みも,時代に合わせて登場し続けるのである.
3.『聖書』『聖書注解』
なんといっても神を中心に家庭を作らなければ,働いても空しい.聖書を読みやすくする注解書を結婚して牧師からいただいた.これほど恵みに与れるのかと思うと際限なくうれしかった新婚時代.その恵みは今も続いているどころか,ずっと続くのである.どうして日本の人は教会へ行かずに疲れ切った週末を過ごすのか.教会に行けば心底疲れは消えるし,神さまのことばを読めば栄養剤など不要になるのに,知らない人が多いのだろう.最近神さまの恵みがありがたすぎて,ほどほどでいいのではないかという考えをよく抱く.今度家族や教会の人に話してみたい.
