毎年夏は体調を崩しやすく,暑さを凌ぐだけでも精一杯だったので,この夏は睡眠の本3冊を買い,退屈を主題とした本をさらに3冊揃えた.暑い時は惰けるのがいちばんで,惰けるにはそれにまつわる負の気持ちを感じないことがいちばんだ.仕事や家事など常に何かをすることに慣れてしまっているので,心身を休ませることがあまりできないでいたのだ.
常に実践が必要だとか,絶対の休息を欲しがるのは悪魔の仕業とか,百年以上前には信じられていたらしい.もっと有意義に生産的に時間を使えという命令である.しかし,それを聴きとっても,そうしない論拠を知っている.ほんとうに有意義に生産的に時間を使いたかったら,もっと何もしないでぼうっとして休むために時間を使ったほうがいいと,最近流行した研究論文で扱われていたのだ.
退屈なとき,もっとも創造的になるという.退屈が文化を生み出したとはよく言われるけれど,知識階級の人たちつまりギリシャのことをよく聞いたことのある人たちが,退屈の無為に堪えがたくなったことで,魔法の領分から芸術や科学を切り出したのだ.おかげで現代は退屈が減少している.
近代の健康観に戻るなら,やることをたくさん見つけて毎日やることでいっぱいにする現代の生活では,やりすぎるストレスと何もしない罪悪感によるストレスによって近々つぶれてしまうだろう.人間はそう変わらないので,科学や芸術を鑑賞するだけでなく作り出す仕事に従事しているなら,近代の退屈を習慣にするといいかもしれない.変化の速い,時間に追われる,それらの謳い文句に当てはまる生活は少なくなっていくにちがいない.
