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a deck for makers but poor

分隔の論理

2017/8/30 by IKIX_temp

 数学に関心がある人は少ないとしても,数学者の思考に関心がある人は多いと思う.私もそのひとりだ.どうしたら理解できるか考えたが,自分で数学を作ってみなければわからないと結論したので,大学では毎日数式を読んだ.社会人になってもいくつかの数学現象を追い,数学的実体を想像しているうち,あの数学者のあの行動はこのような理由なのではないかと思い当たるようになった.
 フェルマーの定理を現代数学の道具を華麗に織り込んで証明したA.ワイルズ.7年間屋根裏にこもって研究した.ウェブで論文が出回りはじめた時期に若い時代を迎えられたことも影響して,7年間を最新の論文を学ぶことに費やした.もし証明できなかったら職も辞するというような切羽詰まった思考ではなくて,論文が出せないというスランプが続いたのでもなくて,おそらくは思考と散策と休息,それに自分の思想と時間をともにし,新しい数学部品どうしをひとつずつ接合して,適合する証明装置を考案していった.そんな地道な仕事であった.
 証明は完成である.完成は辛いもので,他にも証明方法がある,ひとつの完成に過ぎないと思わなければ危険である.ウィトゲンシュタインは論考を出版したあと哲学を一時的に離れたが,精神の喜びに溢れたのは最初の一時期のみだった.その後は職を転々としながら完成できない領域に線を引くような仕事をした.もちろん完成と完璧は違う.プログラムをバグなく書いても,完成への道のりは長く,どこまでも続いている.
 接続が過剰なこの時代に,分隔こそ生存の条件であるといち早く知っていたワイルズ.数学者に学ぶことは多く,しばしば哲学者に指摘されて気付かされるが,静止することのない世界で,分隔する環境を準備しそこにこもって生存理由を求めた逞しさである.まだ数学者のいろいろな言動には謎が多いが,数学を研究しているうちに明らかになってくるだろう.もしわかったと思えたらこのガレージで紹介したいと思う.アディオス.

カテゴリー: 20th タグ: 20th century
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