人生は,いつもひとりだ.過去を反省してみると,友情を育んだ経験が見当たらない.むしろ友情はストレスであり,多くの場合避けてきた.そういう人間だから,反省しても見当たる事象は,風景や街の空気や,内面的なイメージ,図像,思いや霊感である.つまりひとりの中のものである.どうもその方が,誰かと何かした思い出より,より充実しているし,肯定感を簡単に得られる.独創の経験こそ人生を肯定する.
私は社会人になってから,数人の友人ができた.皆私より幾重も年上である.学生時代に友人がなかったのは,自分と同年齢の空気が読めなかったからであり,年齢が上であればまた違った友情が生まれる.学生時代にすでにそう思っていたが,自分にはそれが本当だったのである.美術学校の時,上野で出会った年配の芸人に教わった考え方だ.自分と気が合う友人は,学校の外に必ずいるよ,と.
今友人が片手で数えるほどの数だがいる.それで充分なのだと思う.大切にすると,多くなんか持てない.時間は限られているからだ.みな自分より年上だが,みなそれぞれに優しいし,賢さを持っているし,人間に威厳がある.私はそんな友人が見つかって良かった.孤独やコミュ障に悩む必要がなくなったし,それにより生活が整理され安定してきた.自分に必要だったのは数人の友人だったと信じても過信ではない.
生涯最大の感謝は,妻である.妻は賢く美人であり,非の打ちどころのない人間性を持つ,所謂完璧を絵に描いたような人物だ.自分の眼に合っているということだろう.妻のおかげで自分は立ち直ることができたし,就職に向けて最低賃金で勉強することも許してくれていたし,並の収入を得る職に就けた.私に悩みはすっかりなくなった.私には結婚が最大の邂逅だったが,それが誰かは人によって違うだろう.でもそういう出会いが人生には幾度となく約束されているのだと思う.

コメントを残す