先日,高校の恩師M先生が,癌で亡くなっていたことを知った.この先生を恩師と思う理由がある.高校1年の時の生物および地学の先生だった.先生の講義では教科書を読んではいけなかった.学習指導要領を踏まえないという型破りな方針.その代わりに,毎回レポートのテーマを頂き,自由に論述させる.これは大学の講義だった.いや,大学でも,ここまで面白い講義は,なかった.
先生のレポートで最も印象に残っているテーマが,「自と他の境界を科学的に論ぜよ」というもの.思えばあの暑い夏休みの課題だった.秋になると出揃った回答をプリントで配られた.自分以外の人がどんな考えを持つのかが知れて,甚だ楽しかった.宇宙論や量子力学を持ち出す人,DNAや大腸菌を引き合いに出す人,本当に様々だった.私は単に「自分で定義したところまでが自分」と書いて提出した.
先生はFacebookアカウントをお持ちで,先日初めてアクセスした.癌を患ってから余命の間に残したいメッセージとして,記事を書いていたご様子だった.私はそのことを全く知らなかったことを悔やんだ.というのは,やはり先生こそ,この自他の話を考え続けた人物で,死の間際,最も心に残っている回答が,なんと「自分で定義したところまでが自分」だと記していたのだ.
先生はその回答を少し修正し,「自分が限界だと思ったところまでが自分」をご自身の答えとしていた.闘病中にご自身を励ましていた様子を想像できる.そして,その記事を残したあと,先生は旅立たれた.亡くなる前に先生と一度お話ししたかった.在学していればもっと深く話し合えたはずだった.先生がご闘病の限界で見出した「自他の境界」.私は思う.天の国ではきっと,自他の境界なんてないんだ.そう定義できた自分の答案を採点してくれる先生に,もう一度会いたい.

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