この変化の速い現代にあって,新しいものが何かともてはやされる.技術革新,新生活,新制度.私たちは何かにつけてものを買い,まだ使えるのに捨て,捨てては買う.「買う,使う,捨てる」の循環が短くなっているのか,経済は成長を続けている.あれだけ深刻な恐慌が起きていたというのに.必要なものが人によるようになり,商品は多様になり,消費も生活様式もすっかり個別化した.家族内であっても.
見たところ新しいものがもてはやされるように見える.けれどもそれは大衆への宣伝である.新しいものを大衆に売りつけたい企業の広告である.テレビや新聞や雑誌は,消費を喚起するメディアであり,自分がほしいものを探すというよりは自分にとってほしいものであることを発見させるメディアだ.テレビや新聞や雑誌を視聴しない人は,昔から新しさから距離を於くことができた.新しさは価値の一隅に過ぎない.
一方,ウェブは個別化するメディアだ.自分から検索して初めて視聴できる.自分から発信して初めて回答が得られる.ウェブは個人のメディアである.ウェブ広告も探し求めなければ見られないし,検索履歴を送信しなければ好みを分かってくれない.自分がほしいものを探すうちに,自分にとってほしいものを提案してくれるメディアだ.自分の好みが探られる.探す手間が省ける分,効率が良い.
古くても良いものもある.古典と呼ばれたり中古や型落ちとして流通したり伝統を冠するものもある.新しさだけが良さではない,しかし新しいことが気持ち良いと感じる現代人である.古くから馴染んできた駄菓子とかピアノ曲やゲームや漫画.生まれ育った,或いは生まれる前に存在していた,殊更新しくないものに備わる良さは,新しさをより深く認識する足掛かりになるかもしれない.歴史によって古典を現在と比べられる.

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