読書は楽しい.そうつくづく思う.もしこの人生から本を取り上げられたら,何も残らないので面白くない.傍らに本棚があるだけでわくわくする.背表紙の色々を見ているだけでも退屈しない.そう思えるのも今だけであるかもしれないが,今そう思って過ごしているので人生の事実である.本を読むことが余りに普通のことになってしまい,本を読まない時間を作って反省したら,本を読む時間はやはり楽しいのだと気づいた.
本を開くと,自分の知らない新しい世界が開けている.それはどこかで見知ってきたことのような気がする.当たり前を当たり前と思わないことを読書は要求する.なぜなら,見知ってきたことが今その本の中で再現されており,実は見知ってきたことではなく,自分が想像して埋め合わせた再現なのだ.だから,その本が扱う内容は,どんなに思い描くことができても,見知らぬことなのである.
技術書や学術書も,当たり前のように読めて実はそうではない.知らなかったことを自分の中に探すことができる.私はその本のようには知っていないのだと.人間,新しいことを考えつくものである.その考えはなぜ広まるのかといえば,どこかで見知ってきたことのつながりで,受け入れられるものであるからだ.突拍子もない零は意味が知れるまで広まらないが,期待通りの一は,ことによっては流行を作る.
零でも一でもいいから作り出すことに賭ける生き方.人間の人間らしい部分に焦点を当てた人生とは,そのような生き方である気がする.折角人間なのだから,人間らしいことをして天に召されたい.そう願うのも自然なこと.人間は文字で思想を残せる.読書はそれを掬い取る.そして,同時代以降の人間に伝える.そう,皆どこを向いていたっていい.人間はこれからも豊かである.ずっとそうである.

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