師走に入り,寒くなっている.椅子に座るときは,頭を背骨の上に乗せて,直線的にする.これを守るだけで,脳は整理され,心が前向きになる.そういった知恵が詰まったメンタルヘルスのアドバイスを読んでいて,人から言われたことを守る大切さを感じる.何を言われたか,どうして言われたか,私はあまり考えずに来た.多く言われることはやはり好きではない.また,いつも言われてばかりでも良くない.でも自分が変わるきっかけは,誰かから言われたことなのだ.
自分だけではない.ほとんど人は皆誰かから何か言われて変わる.言った誰かの意図どおり変わることは稀であっても,誰かのことばによって世界が変わってしまう.ことばは力を持つ.人を変えてしまう.ことばは怖いし,誰でも簡単に使うようなものではない.けれども,皆ことばを重視する.ことばで判断も購入も選択も結婚も決める.ことばとは何なんだろう.どうしてこれほどまでに変えられるのだろう.
海外文学の文庫が12冊と少し届いて,昨晩から読んでいる.ピランデッロが書いた短編「月を見つけたチャウラ」を読んだ.悪さを極めたような労働環境である炭坑で働くお爺さんと美青年のやりとり.最後にその美青年は,夜の光すなわち月を,炭坑の穴から出て発見する.炭坑と夜の闇に対比された月は女性名詞.月の光が見える炭坑の出口を,私でさえ容易に想像できた.こんなにも伝わることばがあったのだ.
本を読む大人は少ないらしい.ことばを大切にする大人も減っている.ことばで人は傷つくけど,ことばを大切にするとはどういう姿勢なんだろう.大学で言語の本質を習った気がするけど,本当にはまだ理解できていない.使いこなせていない.充分に洞察もできていない.ことばはこれからの長い人生で必須であり,きょうも今ここで使っているし,今夜も使う.単なる道具ではなさそうだし,記号であるとも言い切れない.文学を手に,ことばの不思議さに感ける年末年始にしたい.

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