非常に贅沢なことだと思うが,今は誰もが簡単にできること.それは,聴き比べ.YouTubeで世界の一流演奏が聴けるこの時代,複数の演奏家を聴き比べることだって容易である.本当に贅沢な時間.ANKER社製の高音質スピーカーをスマホに接続すれば,簡単に部屋が演奏会場に様変わる.好きな曲を推薦してくれるYouTubeのアルゴリズムのおかげで,ずっと聴き続けても飽きない贅沢な時間を過ごせる.実に贅沢.
私はラベルのパヴァーヌを1時間聴き比べた.20回は再生した.私にとってこの曲は青春そのものであり,聴き始めは動揺し泣きそうにさえなった.だってあの激動の青春を代弁するのだから.部活のこと,転学と美術学校の決断,建築写生,木陰の色であるプルシャンブル―,東京外語大のオープンキャンパス,東京湾岸での夜の思い出,天才的な芸術家との邂逅.書ききれない思い出が蘇る.音楽は空間を記憶している.
高校の3年間の感性の研削で,私の思考は決定した.もうひとつを求める気持ちを今でも持ち続けている.そんな人は世に少ないので,話が合わない同僚が沢山いる.もっとほかのなにかを,目先に飛んでいる蝶々を追い駆ける虫取り少年のように,なにか新しいこと,わくわくすること,きれいなことを探しては,捕捉したと思ったら私の永遠に書き込む.その積み重ねが良い生き方だと信じている節はある.
もっとほかの曲を聴きたい.もっとほかの領域も勉強したい.私の好奇心はこうしていつも動いている.いつまでもそうである気がする.気質になっているのだ.老いても若くあるだろうし,仕事がなくなっても一向に退屈しないし,自由が与えられても打ち込むことに困らない.やることをどんどん作り出せるからだ.人生は多くを行うには短いが,好奇心のままに連れられれば時間は濃くなる.時間の濃淡とペースの関係.

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